イグニッション
引き金を引く時には2段階の感触がある。
最初『あそび』といって軽い力で引ける区間がある、そのまま引くと少し抵抗を感じる、この重くなった所を更に引く事で弾が発射される。
狙い、引き金のあそび部分を超え抵抗のあるところで止める、この時点で最終的に狙いを定め、そっと引き金を引ききるのだ。
『引き金を絞って、コトリと落とす。』
このホールドする時間が長い事がままある、あそびのばねの力が強いとこの待ち時間に指が疲れ集中力が続かなくなる。
フェザータッチ、ばねを軽くしてホールドを軽くする事を言うがすべてが軽くなるため加減と慣れが必要だ。
慣れてくると、あそびの深さや重さを自分用にセットしたくなるほどこの部分はとても重要と言える。
このあそびを無視して、引き金を一気に引く事を日本では『ガク引き』と言う。
ガク引きは当たらない、あそびを通過する時点でいつ弾が出るのかわからない間ができる、この瞬間に銃口がふらついたり筋肉が勝手に反動を予想して下がったりするのだ。
だから。
『引き金を絞って、コトリと落とす。』
ここまではすべての銃に共通する話しで、正式に習う時にはどこでも最初の内に教わる事だ。
一発撃ってこのあそびのどこまで戻すとカチっと次弾が撃てるようになるかというミクロン単位の感触を探れるようになるともう一人前と呼ばれる。
実戦で重要なのは常に次弾なのだから。
『コトリと落とす』ほぼ同時に『次弾確認』そして着弾点に意識が向く頃には残響に変わっている、これくらいは慣れる。
銃の使い方を覚えてうまくなるには的は関係ない、紙だろうと動物だろうと何に当たるかは重要ではない、銃に慣れればいいのだ。
しかし、使い方を覚え慣れてきたら的を気にするようになる。
遠くの紙、飛んでいく皿、怯える生き物、状況次第では困難な相手、そして平和と言う名の同族殺し等など。
誰しも好みはあるし嫌な物もある、これについては人それぞれで嫌味を言うつもりはない。
俺は銃を見つけた。
正確には拾ったのだが、およそそこに銃があるとは思えない特殊な状況で、明らかに俺と限定しているようだったので、俺が見つけて手に入れた。
銃には詳しいつもりだが、これの名前がわからない。
形大きさは小銃、台尻は磨かれた木目に金属ががっしりと食いこみ、銃身マズルブレーキスライドする薬室そして引き金があり弾倉がはまっている。
手にしたその場で薬室を除き、弾倉をはずして残弾を確認した。
薬室は空、弾倉にはレミントン系30発の弾がセットされていた。
しかしない物もたくさんある。
マークがない、安全装置がない、ネジがない、カバーもない、装飾や創意、なんらかの意匠など一切ない。
台尻にありそうな工具入れやプレートもなかった。
金属部分の色は黒で触ると細かい凸凹があり艶消し効果とグリップ効果がある。
木部分は赤っぽいチャコールブラウンで全体的に暗い色に仕上がっている。
重さは64式よりもはるかに軽い。
64式と比べるのはどうかと思うが、64式なら弾倉が20発か0発かを判別できるほど知っている。
はじめて撃った時は驚いた。
『引き金を絞って、コトリと落とす。』
ここまでは慣れ親しんだ感触で、引き金の深さや重さはすぐに慣れる程度の感触だった。
しかし発射音がまるで違う、まるでたくさんの細い穴から大量の気体が一気に出るような短い爆発音。
この音は反響しない、いくら大きな音でもすぐに溶けて雑音になる種類の音だった。
あえて触れていない点がある。
認めたくないので、これまで一切ふれなかった重要な部分。
なぜ認めたくないのかと言うと、ここまではノーマルな話しだ、多少脚色したりはあるが基本的に嘘いつわりのない現実にある本当の事だ。
しかし、これは違う。
これは種類が違う。
やめよう、今日は気分がのらない。